2016年9月2日金曜日

6次産業を英語でなんと言えばよいか?

6次産業という言葉をご存じでしょうか?第一次産業が主力の地方の活性化には欠かせない概念です。Wikipediaには以下のような説明があります。

6次産業(ろくじさんぎょう)とは、農業や水産業などの第一次産業が食品加工・流通販売にも業務展開している経営形態を表す、農業経済学者の今村奈良臣が提唱した造語。また、このような経営の多角化を6次産業化と呼ぶ。

農業、水産業は、産業分類では第一次産業に分類され、農畜産物、水産物の生産を行うものとされている。だが、6次産業は、農畜産物、水産物の生産だけでなく、食品加工(第二次産業)、流通、販売(第三次産業)にも農業者が主体的かつ総合的に関わることによって、加工賃や流通マージンなどの今まで第二次・第三次産業の事業者が得ていた付加価値を、農業者自身が得ることによって農業を活性化させようというものである。

6次産業という名称は、農業本来の第一次産業だけでなく、他の第二次・第三次産業を取り込むことから、第一次産業の1と第二次産業の2、第三次産業の3を足し算すると「6」になることをもじった造語であったが、現在は、第一次産業である農業が衰退しては成り立たないこと、各産業の単なる寄せ集め(足し算)ではなく、有機的・総合的結合を図るとして掛け算であると、今村が再提唱している。

さて、このような6次産業は英語でなんと言えばよいのでしょうか?その前に第一次産業から第三次産業までの英訳を確認しておきます。

第一次産業:primary industry
第二次産業:secondary industry
第三次産業:tertiary industry

ということは、primary、secondary、tertiaryに続く6番目の言葉を使えばいいということになります。こちらによると、第四次がquaternary、第五次がquinary、第六次がsenaryということなので、第六次産業はsenary industryとできるでしょう。ただし、こういう日本で作られた言葉は英語に直訳しても広く理解される言葉にはなるわけがないので、この言葉を使うときは十分な説明が必要になるはずです。

さて、英語には「agricultural diversification」という第六次産業に相当する用語があることを農業経済の先生に教えてもらいました。これは直訳すれば「農業の多様化」という意味でしかなく、どうしてこれが第六次産業を意味するのか疑問に思われることでしょう。私も大いに疑問に思いました。

こちらには「agricultural diversification」について以下のような説明があります。

In the agricultural context, diversification can be regarded as the re-allocation of some of a farm's productive resources, such as land, capital, farm equipment and paid labour, into new activities.
(農業的文脈において、「多様化」という言葉の意味は農家の生産資源(土地、資本、農機具と賃金労働者)の一部を新たな活動へと再配分することであると考えられています。)

こちらにはもうちょっと詳しい説明があります。

これを読んで、日本語の6次産業のことを英語では「多様化」という言葉を用いて「農業資源の再配分」であると定義していることがわかりました。日本語における6次産業という言葉のイメージは、農業従事者が加工・販売に事業を広げて、農産物に付加価値をつけて商品として販売するといったものなのですが、それも「農業資源の再配分」という行為の一つであるということです。

この「再配分」の言葉の持つ意味はとても大きいと思います。農業に限らず、私たちの所属する社会や会社・組織や家庭においても、その活動が停滞しているときになすべきことは「資源の再配分」に他なりません。もしご自身の生活がマンネリで停滞していると思われるのでしたら、お持ちの資源(特にお金や時間)の再配分を試みてはいかがでしょうか?

2016年7月29日金曜日

英会話学校の広告に思うこと

所用で西鉄電車に乗っていたら、窓に英会話スクールのベルリッツの広告が貼られていました。満員の列車の中で立っていると、やることがないので視線の先にある広告に目が釘付けになってしまいますね。

Q. 英語初級者のみなさん。

「いまから電車に乗るのであとで折り返します」って英語で言えますか?

この手の広告は、こんなことも英語で言えないとはヤバイと思わせることで、英会話スクールへ入学するように巧みに誘導しています。

しかし、この日本語はどうなんでしょうね?「後で折り返します」は「I'll call you back later」ですが(call back youではないことに注意)、「いまから電車に乗るので」というのは電話を途中で切らなければならないほどの切迫感がまるで感じられない不十分な日本語だと思いました。

ベルリッツのサイトには解答例があり、以下のようになっています。

Sorry, I can't talk now, my train has just arrived. I'll call you back later.

これを読むと、自分の乗る列車がたった今到着したと言って通話を続けられない切迫感を出しています。しかも日本語にはない「Sorry, I can't talk now」まで文頭についていて、この文の意図するところがわかりやすいです。(ただ、その直後の「,」は私的にはあまり気持ちよくありません。「.」ではないのでしょうか?)

いずれにしても、この文には「いまから電車に乗るのであとで折り返します」の意味が多くの外国人には意味不明であるという問題があります。なぜなら、電車に乗るときには携帯電話での会話を止めなければならないという状況は日本以外の国ではあまり一般的ではないからです。

この文は「電車の中では携帯電話で会話をしてはいけない」という日本社会の一般的なマナーを背景にしており、それゆえ海外の多くの国ではほとんど意味をなしておらず、観光やビジネスで来日したばかりの外国人にも十分に意味が通じないと思われます。こんな英文を学習したところで英語圏の国々においてどれほど実用的に役に立つのか疑問に思わざるを得ないです。

さて、アメリカで使われていた日本語教材に「今日は天気がよい[ので/のに]洗濯をしました」という文がありました。この文で「ので」と「のに」を選択する日本語の問題なのですが、アメリカ人はこの問題の正解が「ので」であることに混乱したそうです。なぜなら、天気がいいのにどうして洗濯なんかするの?と思ったからで、アメリカ人にとっての正解は「のに」になります。

アメリカでは洗濯物は乾燥機で乾かすので、天気のよい日に洗濯をしなければならない必要はありません。洗濯物を外に干すことは景観を害するので許されないところもあるくらいで、少なくとも洗濯物を外に干すという行為は私の知る限り一般的ではないです。

言語というのはその言葉が話されている社会と切り離して考えることはできません。外国語を理解するということは、その国の文化や習慣を含めたすべてを同時に理解することであり、それこそが外国語を学ぶ楽しさだと思っています。ベルリッツのような英会話スクールが英語を話すためのテクニックを教えることに終始しているとしたら、それは残念なことだなと思いました。

2016年3月11日金曜日

ファーストレーンとは何なのか?

YOMIURI ONLINEに「入国審査に「VIPレーン」…成田・関空」という記事が出ていました。それによると、「国土交通省は、成田空港と関西国際空港で、日本を訪れる外国人を対象に入国手続きにかかる時間を短くする「ファーストレーン」を28日に設ける。」とのことです。これはファーストクラスやビジネスクラスの利用者が出入国審査を優先的に受けられる仕組みです。ロンドンのヒースロー空港では「Fast Track」と呼んでいます。この空港は入国審査にとても時間がかかるので、ここを通れるのはお金持ちの特権です。

「ファーストレーン」という言葉は国土交通省の文書にもあるようなのですが、日本語でファーストというのは飛行機のファーストクラスで使われるように「first」を意味しています。「ファーストレーン」と書いたら「first lane」しか思い浮かびませんが、この意味ならば正しくは「fast lane」でしょう。おそらくは、英語にも日本語にも弱い国土交通省のバカ役人が「fast」をファーストと書いたのでしょうが、これでは混乱を起こすだけです。「優先レーン」と書くのがベストだと思いますが、「ファストフード」が日本語の中で定着していることを思えば、百歩譲って「ファストレーン」でしょう。

日本語の中には英語に由来するたくさんのカタカナ言葉があふれていますが、その多くは日本語として完全に定着しています。カタカナ言葉の秩序を乱すような表記は止めていただきたいと思っています。

ついでに言うと、ヒースロー空港では出国時にファーストクラス・ビジネスクラスの乗客は高額な税金を課せられており、その見返りとして「Fast Track」があるとも言えます。日本の空港にこんなものを導入すれば、エコノミークラスの外国人旅客の待ち時間がさらに長くなるのは目に見えています。こんな金持ち優遇政策が本当に必要なのか?他にやれること、やるべきことはないのか?国土交通省のバカ役人に頭を使って考えてもらいたいものです。